【前編】東大、官僚、ハーバード、弁護士というキャリアを持つ山口真由さんが語る「仕事の捉え方」について

 

 

―アメリカ留学の経験から、女性の働き方や日本との違いなど感じた?

女性の働き方については、日本が遅れていて、アメリカが進んでいるというイメージがありましたけど、必ずしもそうではないんじゃないかとも思いましたね。

アメリカの女性は強いです。それは決して法律に守られているからではない。むしろ、法律は日本よりも遅れている面がある。制度的に見ると全然整っておらず、先進国の中で唯一、有給の産休がないんですよ。もちろん、自主的に充実した制度を設けている企業もありますけど。大学職員の女性が、「やっぱり、大学っていいわ。産休取ってもクビにならないし」って言ってたので、驚きました。そして、産休を取っても驚くほどの早さで復帰するんです。

あの国の女性は、守ってもらおうという意識じゃない。「私は男の人と同じだけ出来ます、だから差別はもちろん、区別すらしないで!」っていうのが、基本なんだなと。

たとえば、Yahooの女性CEOとして有名なマリッサ・メイヤーは、「4~5時間、眠れば十分」という猛烈な仕事ぶりで知られてますけど、子供が生まれるときも前後2週間しか休まずに復帰している。

まぁ、別にそんなのその人の勝手ですけど、それをロールモデルにされて、「この人みたいに働きなさい」っていうのも、ちょっと違うんじゃないかなぁと。もうちょっと柔軟なモデルがあってもいいんじゃないかなって思いましたね。

逆に、日本の働き方は、集団主義的なのが悪いところかな。仕事が終わっていて、早く帰りたいんだけど、上司が残っているからなんとなく残って、今日しなくてもいい仕事で残業するという……私が働いているときには、そんな雰囲気ありましたね。

その点、アメリカ人はより個人主義的ですよね。人が働いていても、時間が終われば「私帰る」って帰っちゃう。

空港で、欠航が相次いでいらだつ乗客を尻目に、勤務時間終ったらしい地上係員がリュックを背負って颯爽と帰っていく姿には、唖然としました。

あと、日本の場合、閉店時間の10分前に滑り込めば、スーパーでお買い物させてくれるじゃないですか。でも、アメリカだと10分前からレジを締めはじめて、閉店と同時に帰れるように準備している。お客さんが入店してたって関係ない。「だって、閉店時間までの給料しかもらってないし。なんか文句あるの?」って雰囲気がありました()

 

―お客さん側も配慮が必要。10分前の滑り込みも、もうすぐ閉まっちゃう!って意識を持つことが大事ですね

ただ、アメリカでは日本のサービスの質の高さに驚くと同時に、反省もしました。

お客さんが「当然の権利」みたいな顔をして、10分前に入店するのってルール違反ですよね。まして、長々と試着なんてしたら、それが残業になってしまうわけで。

まずは、ルール違反をしないこと。どうしてもな事情があるときには、「すいません、どうしても見たくて、これだけ見せてもらえますか?」ってコミュニケーションをすること。一言、あるのとないのとで気持ちも違うでしょうね。

サービスの質の高さに甘えて傲慢になっちゃいけないなって思います。

 

―実際に接客を受けてみて日本との違いを感じた?

アメリカのほうが距離感が近く感じました。

日本の場合、「お客様」として一定の距離を保つじゃないですか。

対するアメリカはフレンドリーだなと感じました。「Hi」とか「How are you?」とか言われるし。

日本の販売員さんは、みなさん一定の高い質があると思いますが、アメリカは、販売員さんの質もバラバラだと感じました。全く反応しない人も、驚くほどぶっきらぼうな人もいる。全体として、日本の販売員さんに比べてきわめてがさつです。だけど、中には、とても褒め方がうまくて、コミュニケーション能力が高く、かつ、センスのいい人もいる。

それで、私、気づいたんです。そういう人って、自分のことを「プロフェッショナル」って思って、販売員としての自分の仕事にすごくプライドを持っているんじゃないかって。

「私は、販売員としての自分の職業を誇りに思う」なんて、日本で言うとちょっと大げさな気もしますが、アメリカってそういう大げさな表現をナチュラルに口にしちゃう国でしょう? このプロフェッショナル意識みたいなものは、日本も学んでいいかなと思いました。

 

―今ファッション業界で働いている方、目指している方に向けて一言お願いします。

女性のキャリアプランは、かなり難しいと思います。キャリアが継続しないというか、結婚とか特に出産とか、ライフイベントの度にいったん仕事を離れてキャリアが中断する傾向にある。お子さんがいらっしゃる場合には、仕事復帰してもある程度セーブする必要がある。それが、キャリアプランを難しくしているんだと思うんです。

キャリアをいったん中断しても、もう一度、職場に戻っていけるようになるには、専門性が大事だと、ハーバード卒業生の素敵な女性が言ってました。女性の場合には、特に専門性が大事よって。この人にしか任せられないって専門性があれば、職場に戻るにしろ、時短の働き方を選ぶにしろ、交渉力が全然違うわって。

販売員さんって、専門性を形にしにくいところはありますよね。個々の技能に明らかに差がある。接客がうまい人も、色の組み合わせ方が上手な人もいる。だけど、「資格」みたいな形で明確に外に分かりやすくするのは難しい。そこは、販売員さんたちの間の「認定制度」がもっと充実すればいいと思います。それで、例えば「私はこのブランドのラインナップに関してはものすごく知識がある」とか、「組み合わせなどカラーコーディネートには定評がある」とか、少しでも何かとっかかりをつかむことができたら。

若いうちに、このスペシャリティを意識している人は、とても少ないので、それだけで相当な武器になるって、私は思うんです。

あとは、そのスペシャリティを、外部の人に分かりやすく説明できること。

特にストーリーとして話す重要性を感じます。アメリカの大学を受験するときには、このストーリーとして語ることがとても重要で、私も今ではそれを強く意識しています。

ストーリーの基本は、過去・現在・未来。「こういう経験をしてきました」「今、こんなチャレンジをしたいと思っています」「そうすれば未来の私はこうなるんです」。これを説明できるだけで十分、まわりとは差がつきます。

でも、さらに頭一つ抜きんでたいなら、このストーリーを自分の軸の部分と結びつけること。

たとえば、私の場合、今まで一生懸命に頑張ってきたのは、やはり家族の応援が大きかった。でも、自分の家族が本当に好きすぎて、結婚して新しい家族を作ることにどうしても踏み出せなかった。それで、家族ってなんだろうって考えるようになった。だから、これをもっと深く考えて、もっと自由に自分の道を歩みつつ、家族とも素敵な関係を保てるようになりたい。そして、社会で私と同じような葛藤を抱えている人にも何かを提言したい。つまり、過去・現在・未来をつなぐ軸は、私の場合には「家族」。だから、大学に戻って家族に関する法律を研究しようと決めたんです。

自分のストーリーに軸が通っていて、その軸と、さっきお話した自分のスペシャリティがつながっている。これほど強いことはありません。他人へのアピールはもちろんだけど、いつでもその軸の部分に返ってこられるから、自分の立ち位置とか選択基準とか優先順位とかが安定すると思うんです。ストーリーとスペシャリティーー自分だけの独自で素敵なもの。これをぜひ手に入れていただきたいと思いますね。


■山口真由(やまぐちまゆ)
1983年生まれ、北海道 札幌市生まれ
2002年 東京大学教養学部文化Ⅰ類(法学部)入学
2006年 財務省に入省し、主税局に配属。重荷国際課税を含む租税政策に従事
2008年 財務省を退官
2009~2015年 弁護士として大手法律事務所に勤務
2016年 ハーバード大学ロースクール(法科大学院)を卒業
2017年 東京大学大学院 博士課程 法学政治学研究科 総合法政専攻に在籍
>>ハーバードで喝采された日本の強み/山口真由
二極対立思考法、ハーバード流交渉術、人種問題、LGBT問題……
東大首席元財務官僚が学んだ、ハーバード白熱教室の実態!
2015年夏から1年間、ハーバード・ロースクールに留学した著者。
本書では、実際に学んだハーバードの授業のエッセンスを紹介しながら、アメリカという国が抱える根深い問題も明らかにしていきます。
なぜトランプ大統領は選ばれたのか? そして混迷する国際社会の中で、日本が持つ「強み」とは?
これからの時代を生き抜くうえでの知見とヒントをくれる、必読の書です。
【出版社より】