第7回を迎えた国内最大のファッションの総合展「ファッションワールド東京」にて、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクター・軍地彩弓さんが、政治、経済、カルチャーなど、幅広い情報を交えながら、世界のファッションの動向や将来を語りました。

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軍地さんは、大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作に携わる傍ら、雑誌『Checkmate』でライターとしてのキャリアをスタート。卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに携わるなど、現在に至るまでファッション業界の最先端を見て来られました。セミナーのタイトルは、「2017SSコレクションの現場から〜次世代につなぐファッションの行方〜」。ハッシュタグ(#)で章立てされたキーワードについて、豊富な画像や資料を用いて解説。ファッションにとどまらず、国内外の政治や経済、カルチャーに至るまで幅広く密度の濃い情報は、軍地さんならではのものでした。
 

「トレンド」の言葉の定義を捉え直す時代が来ている

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2016.9.25.ミラノで行われたボッテガ・ヴェネタのショーには往年の女優・ローレン・ハットンが登場 (出典:http://www.elle.co.jp/fashion/pick/BottegaVeneta_report16_11/3

#パーマネントファッション」というテーマでは、エターナルなもの、パーマネントなものを求める最近の若者の価値観について言及。

「二十歳前後の女の子に『次に欲しいものはなに?』と聞くと、キョトンとした顔をしたあと、『何か新しいもの、買わなきゃいけないんですか?』と逆に聞き返されます。多かれ少なかれ我々バブル世代は、『毎シーズン新しいものを買わなきゃいけない』という強迫観念があると思うのですが、今の若い子たちは『ママのお下がり』、『ママのクローゼットに眠っていたヴィトンのバッグ』を、古着ファッションに組み合わせてオシャレを楽しんでいるのです」

今はファッションを時間軸で捉えず、世代や時代、性別を超え、自分の価値基準で「いい」と思ったものを着る時代。往年の大女優ローレン・ハットンが、80年代に愛用していた赤いバッグをボッテガ・ヴェネタが復刻したり、来年5月からはニューヨークのメトロポリタン美術館で『コム・デ・ギャルソン回顧展』が開催されたりと、今はまさに、トレンドの定義を捉え直す時代が来ているのかもしれません。

女性管理職のためのスーツが不足している!?

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大統領候補だったヒラリー・クリントンもカラーパンツスーツ姿が多かった。 (出典:http://caocao323.hatenablog.com/entry/2016/04/21/194607

続く「#パワーウーマン」というテーマでは、このセミナーの数時間後に惜しくも女性初のアメリカ大統領の座を逃したヒラリー・クリントン氏、東京初の女性知事となった小池百合子氏の話題から、今後ますます女性の時代が花開いていくと予想しました。

「日本では今、小池さんの話題が出ない日はないですよね。彼女がすごいのは、着ているジャケットが毎日違うこと。聞くところによれば、ジャケット用のクローゼットがあって、200着くらい持っているそうです」

ところが、小池氏が着ているような赤や黄色、パープルのカラージャケットは店頭であまり見かけません。軍地さんの取材によれば、小池氏は銀座マギーでオーダーをしているとのことでした。

「今、シニア世代が着るカラージャケットってほとんど売っていないんです。これからの日本は、政府の方針により管理職の女性が必ず増えていきます。最近、役員クラスの女性から『着る服がない』『昔の服を着てしまう』という相談を受けました」

今、管理職として必要な服。昔の服だと体型も変わって着づらいし、どうしても古臭い印象になってしまう。「2017年の管理職像」をどうビジュアライズすればいいのか、本人たちも困っているようです。

「これからは、百貨店に『管理職の女性のための専用コーナー』を作ってもいいのではと思います。彼女たちはお金を持っている。大人の日本女性に向けた現代らしいスーツにこそ、新たな市場があるのかもしれません」

動画文化の隆盛によって「ファッション=エンターテインメント」という基本に立ち返る

ステラ・マッカートニーのショーで踊り出すモデルたち(Photo:Courtesy of Stella McCartney via Instagram)(出典:http://www.elle.co.jp/fashion/pick/2017ss_fashionweek_happening16_1006/5

今は雑誌やテレビより、個人がSNSで発する情報の方が、拡散力があると言われています。「#動画」のコーナーで軍地さんは、テキストを発表するTwitterから、写真をアップするInstagram、そして動画Snapchatへと流行が移り変わっていることを指摘し、インフルエンサーと呼ばれている人たちの影響力について述べました。

「そうした動きに合わせてか、ファッションショーもエンターテイメント化してきました。ステラ・マッカートニーのショーでは、モデルたちがいきなりコンガダンスを踊り出す一幕があったのですが、それは動画で瞬時に拡散され、あっという間にバズりました。それを見た私たちは、『ファッションはエンターテイメントだ』という基本に立ち返ることができたのです」

売り手が存在しない「作り手=売り手」の仕組みが台頭

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(出典:https://minne.com/

#初期化するモノの価値」というコーナーでは、モノの価値が原始的になっていると言及。

「今、手作り・クラフトなどの販売・購入が楽しめるマーケットプレイス『minne』が話題です。例えば、普通の主婦が作ったお人形や刺繍のバッグが、『minne』を通して直接欲しい人に届けられる。その間にはショップもないし、商社も百貨店もない。売り手がなくなって『作り手=売り手』となります。そうなると、モノの価値はどんどん原始的になっていきます」

そうなったときに、私たちはどのようなビジネスモデルを築いていけばいいのでしょうか。

日本のファッション業界は「沈みゆくシステム」だという危機感をもって

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沈みゆく船から降りなければいけない、と語る軍地さん

「日本のファッション業界は、『沈みゆくタイタニック号』と言えるかもしれません。厳しいことを言うようですが、人口減少や震災後の価値観の変化により、消費者の意識は大きく変化しました。『買わない』というトレンド、天候不順による売り上げの前年割れ、地方百貨店の過剰開店……私が作っている紙媒体など、まさにタイタニックの先頭にあるようなものです」

そんな中、「自分はタイタニックのどこにいるのかを見つめ直すことが必要」と軍地さん。映画でジャック扮するディカプリオは、恋人を救命ボートに乗せて海に沈んでいきます。さて、私たちはどこにいるのでしょう。新しい船を見つける人? ボイラー室で逃げ遅れる人? 甲板で楽隊の音楽を聴いている人?

最後に軍地さんは、こう締めくくりました。

「私たちは新しい船に乗り込み、沈みゆく船を牽引していかなければなりません。中にいてはダメです。一度は業界の外へ出て、他の業界のいいところ、新しい仕組み、テクノロジーに触れる。自分たちの世界、システムの中にいるだけでは、リアルな危機感を持つことは難しいでしょう」